臭神経芽細胞腫の入院体験記

入院体験記

 教会長中島は令和3年から4年にかけて計7ヶ月入院しました。その時の話です。

重要なこと

 この話長いですし、病気の話で面白いわけでもないので、先にお伝えしたいことだけお話ししておきます。
 実は若い時からなんか鼻の調子がよくないな、とは思ってました。ただ、全く匂わないとかそういうわけでもないので放っておきました。20~40代の方に申し上げたいのは、気になるところがあれば、早いうちに病院へ行って相談して欲しい、ということです。

 私も早く診てもらっていれば、頭を開けるような大手術では無く、もっと小規模で終わったと思います。忙しいとか面倒くさいとかあるかもしれませんが、自分のため家族のためでもあります。ぜひ行ってみてください。

始まり

 ことの起こりは令和3年(2021)の2月頃。左の鼻の穴がずっと鼻づまりを起こすようになりました。おかしいな、花粉症が原因かな?それなら時期が過ぎれば治まるだろう、と思って放置していました。しかし、春が過ぎ夏が過ぎ、それでも治りません。さすがに怪しいなと思って近くの耳鼻科に行ってみました。この頃はまだ塗り薬とか飲み薬で直ると軽く思ってたんですね。
 診察の結果、医者から言われたのは予想外の話「紹介状出すので京都第二赤十字病院に行ってください」とのこと。こりゃ薬飲んだだけじゃ終わらない、大変なことになるかもと感じはじめます。

 京都第二赤十字病院にていろんな機械で調査してもらい、言われたのは「これは臭神経芽細胞腫(しゅうしんけいがさいぼうしゅ)という病気です」。生まれて50年聞いたことありませんでしたが、鼻の神経細胞が勝手に増殖する病気らしく、それがおでこを突き抜けて脳にまで行っている可能性が高い、とのこと。
 最後に「これを京都で治療できるところは京大病院しかありませんので、紹介状書きます」。

入院へ

 さてさて、鼻づまりが薬で終わるどころか、京大病院まで発展してきました。10月の末。紹介状を持って京大病院に行くと「今日入院しなさい」と言われます。正直「はあ?」と思いました。なんせこの時でも本人の自覚症状は鼻づまりだけでしたから。
 さらに、私は1人で神主やってるわけで、いきなり入院になったら、仕事が全部止まります。仕事はどうなるんですか?と聞くと、3週間で出すとのこと。10月末でしたから、11月が潰れても、12月でなんとか正月準備はできるだろうと思い、また医者の言うことを無視することはよろしくないということで、すぐに入院することにしました。

 仕事に関しても、医者が何か取り計らってくれるのかな、と思ってたんですが、それは私の勝手な思い込みで、何もしてくれません。出雲大社紫野教会はいきなり活動停止です。外出が一切できませんから、みなさんに連絡のしようがない。
 結局いろいろ検査していくうちに、3週間で退院なんて話もどこか飛んでしまいます。(予想より患部が大きかったということだと思いますが)。さすがにおかしいでしょう、と揉めたわけですが、それが入院生活の始まりでした。

自営業の方へ

 医者というのは優秀な人が多く、専門のことには非常に詳しいですが、他のことにはあまり詳しくありません。
 私も今回気がつきましたが、例えば患者が病棟でどういう生活をしてるのかもそんなに詳しく知ってません。ただ、医療というのは膨大なことを覚えないといけないし、医者はとにかく忙しいですから、それでよいのでしょう。他に専門とする看護師も事務員もいるわけですし。

 とはいえ、即入院となって連絡もできないとなると、自営業や小規模企業の場合は事業停止の可能性もありえます。本人の病状次第ですが、連絡など仕事の整理するから少し待ってくれと言うことも必要かと思います。ただ、こちらが入りたいときに都合よく入れてくれるのかわからないところはあります。入院待ちがたくさんいる部署もあるようですので。

臭神経芽細胞腫

 臭神経芽細胞腫は、鼻にある匂いの神経細胞が勝手に増殖するというものです。体内にいらん細胞が増殖するわけなので、ガンと名前はついてませんがガンの一種です。誰しもガンとは言われたくないものですが、今はガン以外で死ぬ人が少なくなったので、現実大半の人はガンになります。仕方ありません。私にもそれがきました。

 この病気になる確率はネットによると100万人に0.4人。つまり250万人に1人となります。京都府の人口がだいたい260万人ですから、そこで1人くらい。そんな珍しいのに当たるなら、いい才能とか与えてくれたらいいのに。

 そして、京大病院でも詳しい検査を行ってわかったことは、その鼻の神経細胞が

・鼻の大半を破壊してる
・脳に侵入して脳を押し込んで五分の一?くらい占拠してる

 あなたの脳にあるものです、って写真を見せてもらうと、ドバッと白いものが一面に広がってる。まるで宇宙にある星雲の写真みたいな感じ。星雲やで星雲。
 私は冷たい人間なので、自分のものでも、あるものは仕方ないとか言ってしまう人間ですが、さすがにこの写真を見たときは「これ誰か嘘でしたーって言ってくれへんかな」と思ったものです。

 これは終わったか、と思ったわけですが、医師団から言われたのは意外にも手術して除去します、という話でした。その理由は「まだ脳の重要なところには入ってきていない」と「転移が1カ所と少ない」。
 このまま放っておいたら、いつか脳の重要なところに侵入して、脳がおかしくなるか、いきなりぶっ倒れるかは確実でしたから、手術してもらえるということはありがたいことでした。もちろん大手術になります。

治療開始

 臭神経芽細胞腫はガンの一種ですから、治療法もガンと同じになります。つまり、抗がん剤投与、手術で除去、放射線治療の流れです。まずは抗がん剤投与からです。抗がん剤とはこういうもので、副作用が起こる可能性もある、あまりないけど、と説明を受けます。
 しかし、その副作用が直撃。私は夜にICUに担ぎ込まれたようです。ようです、というのはまったく記憶が無いから。担ぎ込まれる前の断片的な記憶はあります。看護師が「(熱が)39.9度もある」と言ってました。そりゃ大変やろ。

 幸い早期の治療で難を逃れました。抗がん剤は計3回打つ予定でしたが、2、3回目は薬剤を変えて投与されました。こちらは大丈夫でした。と言っても、投与された1週間くらいは体がつらく、徐々に楽になる感じです。次の投与まで3週間ほど待たなくてはいけませんから、あとの2週間は元気で暇なおっさんがぶらぶらしてる感じです。ただ、病院からは出られません。
 3回もやれはかなり小さくなってるだろうと期待したのですが、大して変化ありませんでした。鼻づまりは解消しましたが。

コロナ感染

 小さくならなかったのは残念ですが、次は手術となります。が、その待機中にまたもや予想外のことが起きます。

 きっかけは同室(4人部屋)のおじいさんです。この人がある時1週間くらいでどんどんおかしくなってきます。心配していましたが、状態が悪くなって、1人部屋で観察となり出て行きました(悪くなる前はうるさい構ってちゃんのじじいだな、と思ってたのは内緒)。その後、おじいさんに新型コロナウィルス(初期型オミクロン)の感染が発覚します。

 ということは、自動的に同室の私は濃厚接触者となります。おじいさんと直接話したことは一度もなかったのですが。速攻で私も同じフロアの1人部屋に隔離となりPCR検査。数時間後に私にも陽性の判定が下されました。なんでやねん。

 陽性がわかったら、もうそのフロアにはいられません。病院内の別棟にある隔離部屋に送られることになります。私の荷物には全部ビニール袋が掛けられ、車椅子で移動。看護師はこうしますから、と説明するだけで、私の雑談等には一切応じない。病院内の自動ドアやエレベーターには警備員が待っていて、すぐに扉を開けてくれる、という私自身が細菌として扱われた感じでした。(まあそういうもんといえばそういうもんですが)
 とにかく、矢を持って追われる、追い出されるとはこういうものかと痛感しました。これが1日のうちに起こったわけで、茫然と新しい部屋にたたずんでました。

 コロナの症状はなかったのかということですが、実は追い出される3日くらい前から、熱が出る風邪みたいな症状がありました。ただ、解熱剤としてカロナールをもらって飲むと、熱は下がるし風邪のような症状も無くなって元気になる、薬が切れてくるとまた風邪みたいな感じがします。あとから思うとオミクロンの症状だったようです。その時は熱の出る風邪だと思っていました。その後、追い出されてからは幸いにも何もありませんでした。

手術へ

 主治医の先生もいろいろ世界の状況、症例などを調べてくれて、大きな手術は新型コロナ感染から3週間くらい開けた方がいいと話がありました。そこで、短期ですが退院させてくれました。出るときも厳重警備です。正面玄関使わずに業務用出口から。警備員がずらっと並んで半円体勢を取ってます。知らない人が見たら有名人がいるのかな、とか思いそうな感じです。ただのおっさんが追い出されただけですが。
 用意されたコロナ患者専用タクシーで家に帰りました。
 保険会社の人に「コロナにかかりました」と報告したところ、「踏んだり蹴ったりですね」と言われて思わず笑ってしまいました。ほんまやで。

 自宅待機が終わり、再入院から手術です。私は寝ているだけなので先生方にお任せです。全部で12時間?くらいかかったようです。
 鼻の内部機能の大半を撤去し、頭を開けて腫瘍をすべて除去する、という大変な手術でしたが、
おかげさまで無事に終了しました。相当な量の腫瘍を取ったそうです。

高熱に苦しむ

 手術は無事に終わりましたが、その後、高熱が発生するようになります。脳を満たしてる髄液が漏れてきてるのでは無いかと言うことで、止めるために2回手術します。それで止まったようですが、その後も熱は続きます。

 何時間かであっという間に体温が38.6度とかまで上がります。氷枕をもらって急激に冷やすと楽になるのですが、37.1度とかまで落ちると、今度は寒気がして布団をくれと言い出します。
 最初はなんとかうまくコントロールしてやろうと思っていろいろ工夫しましたが、起きてる時も寝てるときもずっとこの状態と言うことで、諦めました。

 平家物語の平清盛状態やなあ(←オーバー)と思いつつ、体がしんどいので、ずっと寝てます。ひょっとして死後の指示を書き留めた方がいいかとも一時は思いました(書いてませんが)。熱で消耗し、ご飯も食べられないので、入院時60kgの体重が52kgまで落ちました(一番おすすめしないダイエット方法)。この頃つらいので看護師にあたったりして、すみませんでした。

 病院で難しいのは正直に症状を言わないといけない、というところです。我慢は美徳ではありません。私はどうも我慢強い人間と思われてたようです。本人の記憶では文句ばかり言ってたような気がしますが。

薬とは

 苦しむ私に救援がありました。京大病院が総合病院の力を発揮します。高熱を起こす原因となった物質を突き止めて、薬剤部がそれを抑える薬を作ってくれます。それを飲むと、2日程度で高熱がすっかり治まってしまいました。凄いですね。薬とはこういうものかと感心し、感謝しました。

 もう一つ私を苦しめたものが注射です。私は元々血管が細いようで、なかなか注射が難しいようです。採血だけならともかく、ご飯が食べられないですから、その代わりに点滴が必要となります。
 その注射がだんだんと持たなくなり、どんどん感覚が狭まって2日くらい、最後は1日でまた新しく注射することになりました。打たれるときも失敗が増えてきます。毎日痛い注射をブスブスと何回も打たれることとなり、悲惨な状況となります。看護師が苦労するのを見るのもつらいです。
ただ、これも最後は腕から長持ちする管を入れることで解決しました。

放射線治療

 高熱と注射問題がやっと解決して、次は放射線治療です。ここで主治医の先生から提案があって、退院することを勧められました。理由の一つはもう計7ヶ月ほど入院していたので、私に相当の疲労感があるとわかっていたということと、ろくに食事がとれず、病院のご飯を嫌っているということも知っていましたので、家で好きなもの食べた方が治りが早いだろう、という判断でした。
 私は喜んで退院しました。

 退院したということは放射線治療は通院になります。平日35日間連続通院。放射線治療は別に痛くもない、短時間で終わるのですが、何度も受けていると、そのうち体がつらくなってきます。バスで一本で通院できるのですが体も疲れるし、貧血で倒れるのも恐いので、後半はずっとタクシー通院してました。お金がかかります。

食事

 食事には本当に悩まされました。とにかくここの病院のご飯はおいしくありません。その原因は塩と油の使用を異常に制限してることです。味の無いチープな和食ばかり出てきて、そのうち食べられなくなりました。
また、手術や放射線治療の影響で、口が開かない、嚥下障害(うまく飲み込めない)、味覚障害(味がわからなくなる)、舌が痛くなる、吐き気がするなどいろんなことが起きて、かなりの間流動食ばかりでした。これはなかなか元には戻らず、最終的には体重が45kgまで落ちました。本当におすすめしないダイエット方法です。

感想

 これだけの手術してますので、何もかもが元通りに治ったというわけにはいきません。顎はゆがむし、左目の横は陥没するし、髪の毛はまだ生えそろわないし、という感じです。それでも、ずっと痛いわけではないし、何より、命があるのがありがたいことです。
 他にも、もしかしたら死ぬかもしれないという恐怖、医師、看護師、看護助手など多くの人によって支えられたということ、自分以外にも大変な人はたくさんいるということ、などなどいろんなことを感じることができました。
 私にとって、それが必要だった、ということでしょう。 


<このページの筆者>
 中島隆広 : 出雲大社紫野教会、教会長
昭和46年京都府生まれ。名古屋大学経済学部卒業、会社員の後、パソコン部品のインターネット通販の会社を起業して経営する。会社売却の後、國學院大學神道學専攻科に入学し、神主となる。

★教会長中島の本が出ました!
 日本人が伝えてきた心、そして生き方を、神道、神さまの話を中心としつつ、語った本です。相当な時間を掛けて作り上げました。ぜひ一度お読みください。

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