志村有弘編の神拝祭式加持祈祷列伝を読んだ感想です

■神主中島の部屋「【書評】神拝祭式加持祈祷列伝」

 この『神拝祭式加持祈祷列伝』(志村有弘編、勉誠出版、平成15年)はなかなか興味深い本です。実は『神拝祭式加持祈祷神伝』(柄澤照覚著、神誠館、大正4年)という本の内容をそのままコピーして載せたような本です。よって、旧仮名遣い、戦前の文体ですので、最初は戸惑うかもしれませんが、読んでいくとすぐに慣れます。

まじないの本

 この本はたくさんの「まじない」のやり方が書かれた本です。70近くの項目があります。

天神七代の事
地神五代の事
人皇紀元の事
加持祈祷の来歴
神拝の法式
奉幣の法式
祈祷式と勧請法
神勅降臨の法式
九字切方図解
稲荷大神勧請法
稲荷大神祭式法
白狐勧請法
稲荷神符の事
狐憑を放す法
地祭の法式
神符の由来
神道焼火祭
焼火祭法
冤罪及雷災除去法
田畑作物虫除法
病者祈祷の祓
病者祈祷祓詞
神道星祭法
星祭法式及祭文
鎮火祭及火渡法
鎮火祭火渡法式
衰運を挽回する法
祈願の法式
諸病間接祈祷法
神符の作法
病気封加持祈祷法
諸病封加地秘文
流行病送り出し法
送り出し法式
病に伝染せざる秘法及呪府
御嶽山祈祷法
日待の法式
日待大事
庚申祭法式
神伝死霊除の法
神伝盗難除法
年越祈祷法
漁網祈祷神法
土用除の作法
安産守護法
両部の秘法
病人全治掛守護
走人足留法
六算除守護
蛇蝎の毒除法
蛇蝎に害せられざる秘法
又蛇蝎の毒除く法
風毒加持法
瘧病落の法
養蚕悪鼠口止禁厭法
流行眼病全治法
富士山火傷全治法
神道虫封法
小児疳の虫呪詛
夜啼禁止法
腫物禁厭法
虫歯全治の法
癲癇全治法
淋病消渇全治法
疝気寸白全治法
乳の出づる禁厭法
脚気病全治の禁厭法
開運盛業の神符
試験優等の神符
訴訟事必勝神符
相場諸勝負必勝法
剣難砲弾除の秘符
土金加持の秘法
十種神宝禁厭歌
悪人調伏の法
呪詛返の秘法

式次第

 なかなか興味深い項目が並んでいます。ここを詳しく知りたい、と思った人もいることでしょう。ただ、期待しすぎてはいけません。B6サイズ程度の大きさで120ページほどのものですから、何から何まで詳しく書かれているというわけではありません。

 例えば、祭典の式次第が書かれている項目があります。中には祝詞の文面も用意されているものがあってそれは便利ですが、次第は「次、祭壇に向ひて敬拝する」と書かれていても敬拝とは具体的にどうすることなのか、ということまでは書かれていません。

 次第は神職資格所有者が見れば、おそらくこのようにするのだろう、と類推できるものではあるのですが、神主としての経験が無い人にはわからないことが多く、また、祭壇はどういう形で、何をどうやってどれくらいお供えするのか、と言ったことも絵で描いているわけではありません。

 ですから、神主でないオカルト好きの一般の人がこの本を持ったら自分で祭典ができる、というような決定的に便利な本ではありません。そのためには師匠がいて、実戦を通じて教えてもらう必要があります。

護符の絵

 この本の価値はおまじないのやり方や祭典の式次第よりも、載せられている護符(お札)の絵にあります。
 病気にならないとか、安産とか、弾丸が当たらないとか。たくさん載せられています。これが本を丸々コピーして掲載した理由であると思われます。(コストダウンのためかもしれませんが)

 護符はそれぞれ独特で面白いのですが、梵字が書かれていたり、日本では見ない漢字が使われていたりして、仏教か道教(陰陽道、修験道)から来ているものがほとんどなのではないかと感じます。日本の神の名前が記されたものもあったりしますが。

 つまりこれは神道なのか?という問題にぶち当たるわけですが、著者の柄澤氏も当然気がついていて、これらのまじないや護符について、次のように述べています。

「加持祈祷や禁厭という事は、我国の神代より行われているものではあるが、今日では道教や仏教が大分混じっておる、星を祭るとか、九字を切るとか、梵字を用いるとか、真言を唱えるというのがそれである、しかし支那や印度の法が加わったからとて日本の根本を失った訳でもなく、またそれらの法が悪いのでも無いのみでなく、長短相補けて大いに発達したのであるから、本教では従来のしきたりによってこれを用いるのである。」(筆者が現代仮名遣いに直した)

 仏教や道教の影響を認めるが、日本で長らく伝えて使ってきたものだから使いましょう、という考え方ですね。私の考えとは異なりますが、一つの考え方であろうと思います。

 なお、「本教」という言葉が使われていて、これが何なのかは書かれていませんが、柄澤氏の位が「大教正」と書かれていますので、恐らく教派神道の一派ではないかと思います。

日本人の先祖概念

 ここまで興味深いとか言ってきましたが、そういう目から離れて、まったくオカルトに興味がない普通の人たちが見ると、「この本は一体何なのか?」と思われても不思議ではありません。書かれたまじないを真剣にやったとしても、効果があるのかどうかわかりません。人によっては荒唐無稽に見えて、完全な嘲笑の対象とするでしょう。

 ただ、その昔の我々の先祖達は、先祖と言ってもせいぜい百年も経たないですが、このようなまじないに頼るしかありませんでした。特に病気関連ではそうです。今なら医者に行った方が早いですが、昔は医療も充実していませんから、最後に頼るのは祈祷師だったのです。そこは事実として押さえておかなくてはなりません。
 もっとも、今宗教的に解決したいというなら、ここにある護符を自分で書いて貼るよりは、神社に行ってご祈祷したり、お札を頂いて貼った方がよいでしょう。

 総合的に言うと、まじない好きの方、あるいはまじないを研究している人には有益な本です。


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<このページの筆者>
 中島隆広 : 出雲大社紫野教会、教会長
昭和46年京都府生まれ。名古屋大学経済学部卒業、会社員の後、パソコン部品のインターネット通販の会社を起業して経営する。会社売却の後、國學院大學神道學専攻科に入学し、神主となる。

★教会長中島の本が出ました!
 日本人が伝えてきた心、そして生き方を、神道、神さまの話を中心としつつ、語った本です。相当な時間を掛けて作り上げました。ぜひ一度お読みください。

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